不育症・不妊症・未婚生理不順・AIDを専門とする、大阪市中央区の婦人科『カノクリニック・かのクリニック』

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基礎知識>不妊症の漢方治療

はじめに

 漢方薬は不妊症に極めて有効です。但しその運用法や有効機序が正しく理解されているとはいえません。漢方医学は西洋医学より個人差,性差を重視します。このため漢方薬は随証療法という漢方医学独自の診断学に従って処方しなければ治療効果は期待できません。
 不妊症で西洋医に最も有名な漢方薬は温経湯です。有名になった理由は20年以上前にラットのin vitro(臓器,細胞レベルの試験管研究)の実験で間脳からのLH-RH(黄体化ホルモン遊離ホルモン)分泌増加を明らかにした論文が発表され(未だまとまった数の臨床報告はありません),製薬会社がその研究成果を大々的に宣伝したことにあります。しかし漢方薬の有効性を動物実験やin vitro の実験で決定することは問題があります。人間を対象としたin vivo(生体研究)でなければ意味がないからです。なぜなら漢方薬は主として胃で消化吸収され肝臓で代謝された成分が血液を循環することで有効性を発揮するからです。さらに人間と実験動物を同じと考える事はできません。
 このため人間に対する漢方薬の有効性の証明実績は現状では西洋医学的研究より歴史的に積み重ねられた漢方医学の方に大きなアドバンテージがあります。

「証」とは

人参

 「証」とは疾病が生体に与えている状況の総合を意味しますが,とりあえず病気による体質の変化の診断学と考えましょう。個人の体質状況によって処方する漢方薬は異なります。従って,同じ病気でも処方される漢方薬が異なるのは勿論のこと,西洋医学的病因が全く異なった病気,例えば不妊症と高血圧と肝障害と痔に同じ薬を使うことさえあります(例:桂枝茯苓丸)。
 「証」診断学はその歴史的経緯から多数の学派が存在しますが,現在代表的な学派は「中医派」,「日本漢方古方派」,「日本漢方後世派」です。
 假野クリニックでは客観性と再現性に優れている日本漢方古方派の八綱・気・血・水弁証法によって治療しています。視診,問診,脈診,舌診等の漢方診察によって八綱(虚実,陰陽,表裏,寒熱),気,血,水,「証」を診断して漢方薬を決定します。このような「証」の観点からは西洋医学の「この病気にはこの薬」という発想で,不妊症には温経湯(虚,太陰,裏,寒, 血,血虚),という処方は間違いなのです。
 不妊症では婦人科御三家の当帰芍薬散(虚・大陰,裏,寒, 血,水毒)加味逍遥散(虚間,少陽,半表半裏,上熱下寒,気逆, 血,水毒)・桂枝茯苓丸(実,少陽,半表半裏,熱,気逆, 血,水毒)のいずれかの運用で殆どの場合は事足ります。
 その他,当帰四逆加呉茱萸生姜湯(虚),八味地黄丸(虚),補中益気湯(虚),人参湯(虚),柴胡枝乾姜湯(虚)等も処方されます。このなかで実証の適応方剤(瀉剤)が桂枝茯苓丸だけという点に注意して下さい。桃核承気湯,通導散等の強い瀉剤は妊孕性を低めたり,流産を起こすことがあるので通常,漢方専門医は処方しません。近年,随証療法が高じて卵胞期と黄体期に漢方薬を使い分けする周期療法なる治療法が脚光を浴びています。黄体期には黄体ホルモンの体温上昇作用によって体温が0.5℃程度高くなるために,相対的に卵胞期は寒証に黄体期は熱証になると考えて,卵胞期に補熱剤,黄体期に瀉寒剤を周期的に投与する漢方療法です。しかし,本治療法は生殖内分泌学的に重大な疑義があります。排卵後に黄体ホルモンが大量に分泌されるのは妊孕性を高めるための生理作用です。黄体ホルモンの温度上昇作用は卵管での卵子や胚培養の至適温度である37.0℃を維持する必然性があります。生理的な高温に対して瀉寒剤を投与してしまってはかえって妊孕性の低下を招きます。前述したように通導散等の強瀉剤は妊婦には禁忌です。このため黄体期にわざわざ瀉寒剤を処方する事は漢方医学的にも問題があることになります。

漢方エキス御三家と婦人科御三家

 保険適応の漢方エキス剤は多くの製薬会社から発売されています。婦人科御三家の当帰芍薬散,加味逍遙散,桂枝茯苓丸の有効性はどこの製薬会社でも同じでしょうか?ノーです。
 構成生薬の朮(じゅつ)が蒼朮,白朮と製薬会社によって異なり,配合生薬量も異なるからです。どうしてこのような事になったのかの理由は定かではありませんが。私は以下のように推測しています。
 漢方薬のエキス剤が保険ではじめて認められたのはコタロー社のエキス細粒で1967年のことでした。したがって,漢方エキス剤の先発メーカーはコタロー社になります。この時認可された方剤のなかでが配合された当帰芍薬散と五苓散に,コタロー社は白朮(キク科オケラ)を配合しました。同社が原典である約2000年前の後漢時代に張仲景によって書かれた原典の傷寒雑病論(宋代に金匱要略として編纂されました)の朮を白朮と判断したためと思われます。

婦人科御三家(分三製剤のみ)

 次いで1976年にツムラ社のエキス顆粒が保険適応になりました。この際,同社はとして蒼朮(キク科ホソバオケラ)を配合しました。この理由は,日本漢方の伝統を重視したためと考えられます。日本漢方は江戸開幕頃から発展し,鎖国の影響もあって本家中国とは異なる独自の発展を遂げました。元禄時代に吉益東洞という日本漢方古方派(私も同派です)の中興の祖が登場しました。吉益は同時代が豊かで食料事情もよかったために体力がある武士・町人が多くなったために,「医術に補法なく瀉法のみ」と万病一毒論を唱えて瀉剤的性格(余分なエネルギーを捨てる効能)が強い蒼朮を採用しました。ツムラ社はこの流れを重視したのです。また,原著である「傷寒雑病論」が執筆された後漢時代の朮の植生を重視したとの説もあります。同時代は黄河の流路が変わった程大雨が降り,竹の植生が現代より北に進展していた事実から現代より温暖化が進んでいたと考えられています。

クラシエ婦人科御三家(分二製剤)

 吉益の理論はその後,漢方医学的に誤りである事が明らかになりました。いずれにしても,吉益は蒼朮が実証の生薬であり,白朮が虚証の生薬であることを認識していたのです。
 三番目にカネボウ(現クラシエ)社のエキス細粒が1981年に薬価収載されましたが,については先発メーカーのコタロー社の根拠を踏襲しました。ツムラ社のエキス剤が保険適応された当初はこの問題が議論されることはありませんでしたが,蒼朮と白朮が配合されたという意味で命名された二朮湯(五十肩の薬として有名です,ツムラ社の製剤だけが保険認可されています)が存在する歴史的経緯から,両者は異なる生薬として認識されていたことは明らかです。
 最近になって両生薬の西洋医学的薬理学的作用が異なる事が明らかになり,にわかに脚光を浴びるようになりました。西洋医学的には白朮は蒼朮と比較すると利水作用のなかで抗利尿作用が優れており,また不育症関連薬理作用として血小板凝集阻止作用と免疫作用が存在することがわかりました。また漢方医学的には蒼朮は比較的体力があり(実),胃腸機能が良い人,白朮は比較的体力がなく(虚),胃腸機能が悪く(裏寒),うつ気分で落ち込んでいる(気虚),多汗症が適応になります。つまり蒼朮製剤と白朮製剤は体質によって使い分けが必要な事が明らかになりました。
 コタロー,ツムラ,クラシエ(旧カネボウ)は歴史的に漢方エキス御三家といえますが,婦人科御三家製剤のなかで当帰芍薬散と加味逍遙散は,前述したようにコタローとクラシエは白朮当帰芍薬散,白朮加味逍遙散であり,ツムラは蒼朮当帰芍薬散,蒼朮加味逍遙散です。
 漢方医学的な根拠で処方する場合は,当帰芍薬散は虚証が適応のため白朮当帰芍薬散を選択すべきでしょう。しかし,虚実中間証の加味逍遙散は使い分けが必要です。比較的体力があって胃腸機能が良好な人は蒼朮加味逍遙散,比較的体力がなくて裏寒,気虚,多汗症がある人は白朮加味逍遙散になります。
 私は蒼朮加味逍遙散(ツムラ社)が無効な卵巣機能不全不妊症で白朮加味逍遙散(コタロー社)に変更したところ妊娠が成立して生児を出生した症例を多数経験して両者の体質による効能差を明らかにしました(新薬と臨床,2008)。同様な研究を当帰芍薬散,桂枝茯苓丸でも行いました。この結果,両方剤の効能も個体差があることが明らかになりました。当帰芍薬散の個体的効能差は加味逍遙散と同様に蒼朮/白朮の種差にあると考えられました。桂枝茯苓丸は両社の生薬に種差がありませんので,コタロー社の方剤は全ての生薬が33.3%多い量差に起因していると考えられました。有効性が高い症例は体重60kg以上の人が多い傾向が認められました。西洋医学には体重に比例して薬物量を増量する原則があります。桂枝茯苓丸「証」の人は漢方医学的にも体重が重い人が多いので,生薬量が多いコタロー社ないしクラシエ社製剤を処方することが効果的であり経済的と考えられます。
 通常,漢方エキス剤は一日3回服用(分三)が普通ですが,クラシエ社の方剤には一日2回服用(分二)製剤があります。
 最近,卵巣機能不全不妊症に対する漢方療法で妊娠が成立し生児を出生した無作為に抽出した100例を対象に臨床研究を行なったところ,加味逍遙散55例(%),桂枝茯苓丸20例,当帰芍薬散19例で,御三家合計で94例(%)を占めました(日本東洋医学誌;2008)。加味逍遙散,当帰芍薬散は全て蒼朮製剤でしたので白朮製剤との使い分けをすれば同時期にさらに妊娠者は増えていたと推測しています。尚,残りは当帰四逆加呉茱萸生姜湯5例,人参湯1例で温経湯は存在しませんでした。また,不育症の柴苓湯と同じく構成生薬の量の違いも問題になってきました。表に示すように当帰芍薬散,加味逍遙散,桂枝茯苓丸も配合生薬量が異なります。含有生薬量は概ねクラシエ社,コタロー社,ツムラ社の順ですが,桂枝茯苓丸はコタロー社,クラシエ社は全ての生薬がツムラ社の製剤より33.3%多くなっています。またクラシエ社の当帰芍薬散の芍薬がコタロー社,ツムラ社より50%多く配合されています。当然,駆血作用は強いでしょう。また,芍薬は鎮痛作用を有しているために,例えば月経困難症等の痛みを伴う卵巣機能不全症には同社の芍薬増量白朮当帰芍薬散がより有効と考えられます。薬物の効能と副作用が用量依存性に高まるのは現代薬理学の原則です。

御三家の婦人科御三家構成生薬量

 以上の事実は構成生薬の配合量を重視する中医学の加減法や,体重による投薬量を重視する西洋医学に配慮したメーカー別の鑑別処方が必要な事を示しています。
 不妊症と不育症には関係ありませんが,量差が顕著なのは漢方薬では最も有名な葛根湯です。同剤は番号1番が与えられているように漢方薬では一番有名な方剤です。中国後漢時代のAD217年に張仲景著作の漢方医学のバイブルである「傷寒雑病論」に記した構成生薬量と現代日本の“御三家”メーカーの保険適応エキス剤の生薬量を表に示します。ただし,「傷寒雑病論」方剤の“桂皮”は“桂枝”で,“甘草”は“炙甘草”と若干異なります。構成生薬量が現代のエキス剤より多くなっています。しかも生薬は生姜以外は野生種であった可能性が高いので,その効能は現代のエキス剤よりはるかに強力であったと推測されています。当時傷寒と呼ばれていた腸チフスの初期に投与すれば治癒せしめる効能があったことは疑いないでしょう。エキス剤のなかではクラシエ社の製剤は葛根(コタロー,ツムラの倍量),大棗,麻黄,芍薬,桂皮がツムラ社製剤より多く,コタロー社は麻黄がツムラ社より多く,ツムラ社は生姜がコタロー社,クラシエ社より多く配合されています。

葛根湯の構成生薬

 さらに,男性不妊症や更年期障害に処方される柴胡加竜骨牡蛎湯はコタロー社とクラシエ社の製剤には大黄が配合されているのに対してツムラ社の製剤には配合されていません。また,“めまい”に処方される事が多い半夏白朮天麻湯はツムラ社の製剤はコタロー社,クラシエ社に含有されている蒼朮が配合されていません。これらも漢方医学・西洋医学的に無視し得ない問題で,今後,鑑別処方の必要性が問われる事になるでしょう。
 本邦においては同一商品の比較広告は景品・表示法で禁止されています。漢方薬の構成生薬の種類と量が異なる事は効能書を見比べれば一目瞭然ですが,単一メーカーしか導入していない施設のユーザーである医師や薬剤師は知る機会がありません。いずれにしても,ユーザーに効能書にも記載されている製剤の成分の種類や量の差異といった商業を超越した純医学的な薬理学的問題を情報提供する事が景品・表示法に定める違法行為にあたるとは考えられません。むしろ製剤の安全で効果的な運用に有益な情報を,同法を根拠にしたメーカーの事情を優先した自主規制に名を借りた談合によって隠蔽する事の方が医療法上に問題になると考えられます。また,医療の情報開示が厳しく求められている昨今,患者さんから商業主義優先の詐欺といわれても言い訳ができません。メーカーは積極的に開示すべきでしょう。卵巣機能不全不妊症の漢方療法は蒼朮,白朮製剤,生薬量を配慮した使い分けや生薬の量差を考慮した。御三家の運用が中心と考えるべきでしょう。

無作為選択100生産例の妊娠時に処方した漢方方剤

 ところで,漢方方剤はいかなる機序で妊孕性を高めるのでしょうか?

漢方薬の有効機序

 婦人科の専門医でない漢方専門医の多くが不妊症に漢方療法を行っています。それらの医師に有効機序を尋ねると,大抵「決まっているじゃないか,妊娠しやすい体質にするんだよ!」との非科学的かつ曖昧な答が返ってきます。
 漢方方剤は主としてその駆血作用,利水作用によって骨盤内の循環動態を改善することで,下垂体から卵巣への性腺刺激ホルモン(FSH,LH),卵巣から子宮への卵胞ホルモン,黄体ホルモンの循環を改善する結果として妊孕性を高めます。つまり,卵胞を発育させて,排卵を誘発し,その後の黄体機能を賦活する事が有効機序なのです。つまり,機序は異なるものの最終的薬理作用は西洋医学のクロミッド,セロフェン,セキソビッド,hMG,遺伝子組み換えFSH 製剤等の排卵誘発剤と同じなのです。したがって,駆血作用,利水作用を有する方剤が運用の中心になります。ただし,通導散や桃核承気湯のような強瀉剤には抗妊孕作用があるため,「実」の駆血剤の適応方剤は桂枝茯苓丸に限られます。
 当帰芍薬散,加味逍遙散,桂枝茯苓丸の“婦人科御三家”を中心に運用すれば大誤はありません。構成生薬から考えると,駆血作用は桂枝茯苓丸が最も力価が高く,次いで加味逍遙散,当帰芍薬散の順になります。これに対して利水作用が最も強力なのは当帰芍薬散,次いで加味逍遙散,桂枝茯苓丸の順です。このため必然的に両作用中間型の加味逍遙散の適応例が多くなります。尚,前述したようにエキス剤の当帰芍薬散と加味逍遙散には生薬「証」が異なる白朮製剤と蒼朮製剤があります。虚証という意味で当帰芍薬散は白朮製剤でよいと思いますが,虚実中間証の加味逍遙散は鑑別処方が必要です。
 ところで,1985年のマウスの間脳―視床下部―下垂体灌流実験による黄体化ホルモン遊離ホルモン(LH-RH)分泌促進作用報告を受けて,いまだに本症に温経湯がメジャーになっていますが,私は温経湯を不妊症の代表的方剤と考える事には反対です。その理由は同方剤には利水作用がない。さらに“御三家”と比べれば大規模症例による臨床報告がない。また基礎研究に対応した温経湯単独による下垂体性卵巣機能不全症の排卵成功例の報告がないためです。
 漢方医学的には卵胞ホルモンが水分・電解質代謝に関係しているためか,「虚」と「水毒」の合併症例が多くなります。以上の西洋医学的臨床報告と漢方医学的薬理作用から,温経湯は熱作用が強いので冷え症が重度な症例を中心に運用すべきでしょう。ただし,私はそのような症例には当帰四逆加呉茱萸生姜湯を好んで処方しています。いずれにしても,漢方薬は,in vitro(試験管内で行われる非生体実験)の動物実験結果を唯一のエビデンスとして臨床的に有効と判断する事は問題です。私は蒼朮加味逍遙散単独によって第Ⅱ度無月経で排卵誘発に成功した症例を経験しています。加味逍遙散は温経湯より中枢性卵巣機能不全症に有効な可能性があります。加味逍遙散の構成生薬である柴胡には中枢作用が知られています。温経湯には柴胡は配合されていません。
 卵巣機能不全不妊症の西洋医学のファーストチョイスであるクロミッド,セキソビッドには子宮内膜菲薄化作用,頸管粘液減少作用等の抗妊孕作用があるため無排卵症を含めて漢方療法を第一選択薬と考えるべきでしょう。ただし,有効性を判断するために卵胞ホルモン,黄体ホルモン,主席卵胞最大径,子宮内膜厚,頸管粘液量等は毎月チェックすべきです。「証」診断が間違っていれば効果はありません。漢方療法が単なる伝統医学ではなく,グローバルな現代医学と認められるには西洋医学と折り合いをつける必要があります。このため随証療法の有効性を西洋医学的に検証する事で西洋医学と折り合いをつけるのです。
 著者は漢方単独療法が無効な場合はクロミッド療法ではなくhMG-hCG療法を漢方療法に併用しています。“御三家”の骨盤内循環改善作用による相乗効果が期待できるからです。
 臨床的エビデンスにより西洋医学的「証」で運用すべき方剤もあります。早発排卵不妊症と多嚢胞性卵巣に対する芍薬甘草湯です。前者には月経初日から排卵確認まで服用してもらいます。このため不妊症の漢方療法は婦人科医,できれば不妊の専門医が行うべきなのです。

西洋医学的治療に対する漢方療法の優越性

 「体外受精で妊娠しなかったのに漢方薬で妊娠した」と自慢げに話す漢方専門医がいます。しかし,不妊症専門医の立場から考えてみるとこの話はちょっと変です。
 体外受精は本来,卵管不妊症例か男性不妊症に対して行われます。漢方で妊娠したということは卵巣機能が悪かったのです。つまりこの患者さんは体外受精をする必要がなかったのです。卵管が完全に閉塞した人や御主人の精子が悪い不妊症の奥さんが漢方薬を服用して妊娠する筈がありません(男性が服用すると精子が良くなる漢方薬はあります)このような矛盾した自慢話をするから優秀な西洋医は漢方を馬鹿にして信用しなくなります。漢方を誉め殺しにしてはいけません。
 西洋医学的には第一選択薬のクロミッドには頚管粘液減少作用や,子宮内膜菲薄化作用などの不妊作用があります。前者によって精子の子宮通過性が悪くなると人工授精(AIH)をせざるを得なくなります。しかしAIHは子宮内膜の問題を解決できません。クロミッド-AIH 療法は不妊症の泥沼化のはじまりです。これでダメだと体外受精にステップアップせざるを得なくなってしまいます。かくして,本来する必要のない人に体外受精をしなければいけなくなってしまう事態になるのです。こんなことにならないように卵巣機能不全不妊症は漢方薬から始めましょう。
 hMG,FSH 療法の欠点は多数の卵胞が発育することです。このためせっかく妊娠したとしても多胎になったり,卵巣腫大(OHSS)を発症します。漢方薬の欠点は上記の2製剤と比較すると治療効果が弱いことです。このためクロミッドでなら1日1錠5日間でよいところを,1日3回,それも毎日服用しなければいけません。しかし漢方薬にはおまけがあります。冷え性,不眠症,肩こり,頭痛等の自律神経失調症を改善します。便秘がなおったり,胃腸の調子も良くなります。経済的にもエキス顆粒製剤による保険診療である限り御三家は安価です。
 随証療法に拠らずに西洋医学的診断で処方できる方剤があります。芍薬甘草湯です。高プロラクチン不妊症,高LH・テストステロン(男性ホルモン)卵巣機能不全不妊症(多嚢胞性卵巣に多い),早発排卵(12日以前の排卵)不妊症です。

まとめ

◎ 漢方薬は不妊症に有効である。
◎ 有効機序は卵巣機能改善作用にある。
◎ 随証療法で運用しなければ効果は期待できない。
◎ 有効性は西洋医学的に検証しなければいけない。
◎ 不妊症の漢方療法は効果を検証できる婦人科医が行うべきである。
◎ 芍薬甘草湯は高プロラクチン不妊症,高LH・テストステロン卵巣機能不全不妊症に有効である。
◎ 早発排卵不妊症には「証」にかかわらず芍薬甘草湯が有効である。

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