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はじめに
検査
不妊症の治療(原因から治療法を)
各種不妊症の治療
子宮内膜症
当院における各種不妊症の治療の実際について具体的にお話します。
漢方療法→HMG製剤→クロミフェン併用
本症は卵が悪い為に妊娠しないのですから、治療としては西洋医学的には”排卵誘発剤”と呼ばれる卵を大きくする薬物(卵胞発育促進剤)を使用します。最初に八綱・気・血・水弁証法によって「証」を決定した漢方薬を処方します。卵の発育は超音波による卵胞径、血液中の卵胞ホルモン(エストロゲン、エストラジオ−ル、E2)量で評価します。鶏の卵に例えれば前者は”白身”の、後者は”黄身”の検査と考えれば分かりやすいでしょう。ですから超音波の卵胞径さえ大きければよいというものではありません。”黄身(卵子)”が悪い、あるいは”ない”卵は妊娠しないからです。したがって卵胞ホルモン検査は欠く事ができません。超音波卵胞径の目標は1.6cm、エストラジオールの目標値は100pg/mlで同時に満たされる事が必要です。この際、排卵したからよいとは考えないで下さい。悪い卵子が排卵した場合や空排卵(卵子がはいっていない卵胞の破裂)では妊娠しないからです。
![]() ・当 帰 |
漢方薬を三ヶ月服用して目標値を達成出来なかった場合は注射製剤のhMG(ヒト閉経期性腺刺激ホルモン)を漢方薬と併用します。hMG製剤はクロミッドのように頸管粘液減少作用や子宮内膜菲薄化作用はありませんが、複数の卵胞を発育させる欠点がありますので、多胎や卵巣腫大といった卵巣過剰刺激になることがあるので超音波によるモニタリングをより丁寧に行う必要があります。
hMG製剤を大量併用してもなお目標値が達成出来ない場合にはじめてクロミッドを併用します。クロミッドは今や漢方薬ーhMG療法の経済的補助剤と考えた方がよいでしょう。不妊症におけるクロミッド(セキソビッド)の歴史的使命はその頸管粘液減少作用と子宮内膜菲薄化作用(副作用ではありません)故にすでに終わったと考えていいでしょう。
黄体機能不全の場合にも漢方薬をファーストチョイスにします。無効な時はhCG(ヒト胎盤性腺刺激ホルモン)製剤を併用します。黄体ホルモン(プロゲステロン、P4)の目標値は15.0ng/mlです。
以上の治療を行って卵胞径は大きいが、エストラジオールが低い為に妊娠しない場合は卵子が入っていない可能性があります。このような場合は体外受精をおこなって卵子が入っているかを確認する必要があります。検査的体外受精です。
<注意>あまり知られていないことですが、早い排卵は妊娠しません。小生独自の研究では月経周期11日以前の排卵には生児獲得妊娠が存在しません。以前より早発排卵(結果として月経周期は短縮します)は更年期の入り口と言われてきました。”女”としての老化が進み卵巣に妊娠可能なよい優良原始卵胞が少なくなっている状況と考えられます。
このような場合は排卵を遅らせる治療を行います。まず漢方薬の芍薬甘草湯を処方します。50%程度の有効率があります。無効な場合はGnRHa製剤(スプレキュア、ナサニール)-hMG-hCG療法を行います。GnRHa製剤は本来は子宮内膜症治療薬で排卵を抑える作用があります。同製剤をあらかじめ設定した排卵予定日(月経周期13日以降に設定する必要があります)前日昼まで点鼻投与します。その間hMGで卵を発育させ超音波で卵胞径が1.6cm以上になったら排卵予定前日にhCGを注射します。なおこの際のGnRHa製剤は健康保険の適応にはなりません。排卵が遅い場合は卵さえよければ気にする必要はありません。小生のクリニックでは30日台の生児獲得妊娠は多数存在します。最長は65日目の排卵です。したがって、最終的によい卵であれば毎月月経周期が少々狂っても妊娠には問題はないのです。
小生のクリニックでは卵の発育を促進させる治療(卵胞機能刺激療法)のファーストチョイスの薬物として漢方薬を処方しています。しかし、漢方薬をファーストチョイスとしている施設は不妊症専門クリニックとしては少数派で、90%以上のクリニックではクロミッドを投与します。小生がクロミッドを嫌うのはその頸管粘液減少作用、子宮内膜菲薄化作用のためです。連続投与をすると6ヶ月以内に頸管粘液が減少してきて精子の頸管通過が悪くなり、子宮内膜が薄くなるため(症状的には月経量が減少してきます)に着床に問題がでてきます。対策としては前者には人工授精(AIH)を、施設によってはエストロゲン補充療法(エストリオール製剤)によって頸管粘液の回復療法を、後者に対してはエストロゲン補充療法(プレマリン等)を行います。AIHはもともと妊娠率が低いですし、エストロゲン補充療法はもとより大きな効果が期待ができないばかりか、卵胞発育や排卵に悪影響を与えるといった問題点があります。クロミッドーAIH、エストロゲン補充療法を行わなければならない事態になると不妊症治療は泥沼化して最終的にはステップアップの名のもとに本来は行う必要がない体外受精(IVF)を実施しなければならなくなってしまいます。やはり頸管粘液減少作用や子宮内膜菲薄化作用がない漢方薬ファーストチョイスとして自然妊娠を目指すのが本道でしょう。漢方薬の効果が不十分の場合は以上のマイナス作用がないhMG製剤を併用することが賢明です。
不妊症治療はタイミング療法、ステップアップ療法と進むのが一般 的ですが、私は絶対に反対です。なぜなら、タイミング療法で妊娠しないと性交した日が悪かったと考え排卵日にこだわりが強くなる”排卵日不妊症”になってしまいます。本来、性交日が適正でない事が不妊の原因である確率は低いのです。
また、ステップアップ療法のうちクロミッドの適応は卵巣機能不全不妊症、AIHの適応はヒューナーテスト不良不妊症、IVF−ETの適応は卵管不妊症、男性不妊症とそれぞれ異なります。ステップアップ療法とは本来適応が同じ治療をグレードアップするという意味ですから、名称的にも間違ってることになります。もともとAIHの妊娠率は低率ですから、クロミッドから始めると最終的にはIVF−ETに”ステップアップ”してしまうことが多くなります。こうなると卵巣機能不全不妊症にIVF−ETを行う事態となってしまいます。同症における妊娠率は漢方単独療法とIVF−ETは変わりません。リスクとコストが高くなるだけIVF−ETのほうが損と言えるでしょう。
私のクリニックではタイミング、ステップアップ療法の代りに漢方単独療法からスタートする”通信簿”療法を行っています。前周期の不妊の原因を明らかにする事で次周期の治療法を決めるやり方です。この方法でも症例によってはIVF−ETを行う事があります。ただしその適応はあくまで卵管不妊症と男性不妊症です。
通水療法→体外受精
卵管の検査には通気検査、通水検査、子宮卵管造影(HSG)があります。ひとつだけすればいいのではないかと思うでしょうがそうではありません。それぞれ検査目的が違うのです。
卵管は単なるトンネルではありません。このため、ただ通っていればいいというものではありません。仕事があります。卵管の仕事は卵子をピックアップして精子と受精する環境を提供し、子宮まで培養しながら蠕動運動によって子宮まで移送する事です。

通気検査は卵管に炭酸ガスを通じて卵管の卵子、受精卵(胚)を移送する卵管の蠕動運動の可否を調べる検査です。つまり流通業としての卵管の検査です。卵管の蠕動運動は自律神経の交感神経によってコントロールされています。交感神経が過緊張の状態になると流通業の仕事が貫徹できなくなります。通常、交感神経が過緊張になると副交感神経がその作用を中和して調和をとるシステムになっていますが、卵管と男性の精管はどうした訳か副交感神経の支配が極めて弱くなっています。
このため交感神経の緊張が高まると卵子と胚の移送が円滑にできなくなります。通気検査の診断基準は通気圧100mmHg以下、通気圧型正常型です。異常の場合は排卵から着床時期まで交感神経遮断剤を服用します。本検査は保健の完全な適応になります。ちなみに交感神経の緊張が高まると心臓がドキドキします。つまり心臓がドキドキしている時は卵管もドキドキするので不妊の原因になります。ストレスは卵管にもいけないのです。

通水検査は文字通り卵管に水を通ずる検査です。卵管の自然の通過性を調べます。どうして自然の通過性が分かるかというと、自然の状態では卵管は卵管液と呼ばれる水に満たされているからです。体外受精の培養液にあたります。人間の生命が誕生して、最初に育つ場所は子宮ではなく卵管です。したがって、卵管の生理的な太さが細いと言う事は子宮が小さいのと同じです。水の通過性は水でしか分かりません。ちなみに通気検査では炭酸ガスを、子宮卵管造影では油を通じますので生理的卵管の通過状況は分かりません。通水検査は専用のデジタル通水器で行えば自然の通過性が数字で分かります。
正常値は 60mmH2O以下です。

![]() ・像影図 |
![]() ・終末像:正常 |
![]() ・終末像:癒着 |
![]() ・終末像:閉塞 |
また通水は治療としても有効です。卵管の通過性に障害を及す疾患としてはまず炎症があげられます。炎症は膣炎が引き金となることが多いのです。膣炎は下着が汚れたり、掻痒感が主たる症状の臨床的には大した病気ではありません。しかし、放置すると不妊の原因になります。したがってそれらの症状があるときには早めに検査を受けて治療してもらったほうがよいでしょう。最近では性交で感染するクラミジアが問題になっています。第二の原因は環境ホルモンとの関係が取りざたされている子宮内膜症です。子宮内膜症については後で詳しく述べます。さらに月経血の逆流によって汚染される事もあります。月経は毎月起こります。このため卵管の掃除の目的で毎月施行した方がよいのです。この際、卵管の掃除に有効な洗剤に相当する成分を予め入れておきます。月経血の汚染の場合は効果は著明ですが、炎症や子宮内膜症が原因で卵管に狭窄が起こった場合は通水療法の有効性には限界があります。6ヶ月通水を行って効果が認められなかった場合は体外受精を考慮する必要があるでしょう。ただし、体外受精は採卵時の母体のみならず、受精培養時の光刺激によって子供が染色体異常や奇形を発症するリスクがあることは忘れてはいけません。本検査(治療)は配合成分の一部が保健の適応になりません。
子宮卵管造影(HSG)は造影剤によって子宮ー卵管系を造影する形態的検査です。通気検査や通水検査が機能検査ですから、本検査によって卵管の検査を総括する事はできません。造影剤としてはエンドグラフィン、イソビストといった水溶性のものとリピオド−ルといった油溶性のものがあります。前者は血管に入った場合に安全性が高いという利点がありますが、像がシャープでないことと造影24時間後以降に行う終末像で卵子のピックアップに障害を及ぼす卵管釆部の癒着(PFA)を診断できない欠点があります。このため不妊専門クリニックの大半は後者を採用しています。癒着の診断は卵管終末部付近の造影剤の拡散状況によって診断します。はっきりしない場合は腹腔鏡検査を行ないます。
卵管狭窄は卵管采部癒着が診断された時は通水を月二回程度半年をメドに行って、本検査を再度行い、改善が認められない場合は体外受精を行わざるを得ません。本検査は完全に保健の適応となります。
本検査は子宮の検査にもなります。子宮の大小(大きくても小さくてもいけません)、子宮腔内癒着、筋腫、ポリープの有無、子宮内膜炎等などが判明します。
男性への薬物治療→人工授精(AIH)→体外受精(IVF)→顕微受精(ICSI)→MESA→TESE
近年、男性不妊症が急増して不妊症の原因の半分を占めるようになりました。ストレスや環境ホルモンなどの社会的な原因によるものでしょう。体外受精は本来は卵管不妊症に対する治療として開発された技術ですが、いまや男性不妊症の治療になったといっていいでしょう。
このため、ややもすれば、男性の精子所見が悪いとすぐに人工授精(AIH)や体外受精(IVF)などのART(生殖補助技術)に走りがちですが、小生はそのような考えには反対です。あくまでも自然妊娠を目指すべきです。精子が悪い時はARTではなくまず精子をよくする治療に着手すべきです。
精子の検査は精液量、精子数、運動率、奇形率、直進精子運動速度などを調べます。正常値はそれぞれ2ml以上、6000万/ml以上、80%以上、15%以下、2.0sec/100μm以下です。みなさんが検査項目のなかで最も気にするのは奇形率です。しかし、実際にはもっとも重要ではないのです。奇形精子では自然妊娠はしません。日本人は奇形という言葉に大変差別感が強いのです。困ったことです。個性を認めずに横並びが好きな国民性のためでしょう。このような国民性が日本を堕落、腐敗させてダメにしてしまったことを反省しなければなりません。話が脇道にそれてしまいました。奇形精子は不良品と考えればいいのです。工場(睾丸)の生産性に問題があると不良品率が高くなると経済学的に考えればいいでしょう。この場合、生産性を向上させるため、下記の薬物療法を行います。最も重要なのは奇形率ではなくて運動精子数(精子数X運動率)です。運動精子数とARTの一般的適応は以下の如くです。
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3500万/ml:自然妊娠 3500万未満2000万/ml以上:人工授精 2000万未満1000万/ml以上:体外受精 1000万/ml未満:顕微授精 |
ただし3500万/ml未満だからといって直ちにARTに踏み切ってはいけません。
![]() ・附 子 |
男性不妊症の薬物療法はまず経口剤から始めます。私は漢方薬を優先しています。男性不妊症に効能がある方剤として八味地黄丸、牛車腎気丸、人参湯、補中益気湯、柴胡加竜骨牡蛎湯などが知られています。このなかで最近最も頻用されているのは補中益気湯です。しかし、漢方療法を行う場合は女性と同じくあくまで随証療法によらねばなりません。仮に肥満気味で暑がりで汗かきで下痢気味で不眠症のひとに補中益気湯を処方すると精子がよくなるどころか、発汗がひどくなり、下痢が増悪して、夜はイライラして寝れないと云ったことになってしまいます。札幌に行く人を沖縄行きの飛行機に乗せるようなものです。そのような人には柴胡加竜骨牡蛎湯を処方すべきなのです。小生は「証」の決定は日本漢方古方派の診断学に準拠した八綱・気・血・水弁証法で行っています。日本人が考え出した客観性と再現性が高い優れた診断法です。ところで最近、補中益気湯当日大量療法が注目されています。性交当日に一回に7.5gを服用するのです。この方法は論文的に根拠があります。
西洋医薬として頻用されるのはビタミンB12、カリクレイン製剤(男性不妊症では保健の適応は受けられません)、ATP製剤、ビタミンE等です。小生はビタミンB12(メチコバール)、ATP製剤を好んで処方しています。また最近クロミッド25日連日、5日間休薬療法の有効性が報告されました。
内服療法を半年行っても効果がない場合は注射製剤であるhMG療法ないしhMG-hCG療法を行います。この際のhMG製剤は内分泌薬理学的にはLH含量の多い製剤(ヒュメゴン等)がよいでしょう。
以上の薬物療法にもかかわらず運動精子3500万/ml以上を達成できず、ヒューナーテストが不良だった場合はARTに踏み切らざるを得ません。最初にAIHを行います。方法については詳しくは述べませんが、最近では精子を直接注入することはなく、体外受精の精子処理と同じ方法でswim up処理を行ったものを使用します。小生のクリニックでは培養液はHTF(ヒト卵管液様液)を使用し、精子の運動性を向上させるためにカルシウムを添加しています。
AIHが無効だった場合はIVFを行います。小生のクリニックの特徴としては精子のswim upの培養液中に採卵の時に採取したHFF(ヒト卵胞液)を加えています。通常のIVFで受精しない場合は顕微授精を行います。最近では殆どの施設で細胞質内精子注入法(ICSI)が行われています。ただし、通常のIVFで受精しなかったからといって直ちにICSIを行うことには反対です。顕微授精は卵子に傷をつけ変型させるのでできる子供が染色体異常や奇形になるリスクが高くなります。IVFもあくまで自然に受精させるのが安全性が高いのです。小生のクリニックでは通常のIVFで受精しなかった場合はすぐにICSIに進まず、マイクロドリップ法を行っています。この方法は精子を含む培養液によって卵子の周囲を水滴状に被う方法です。精子の処理をうまく行えば精子数300万/ml程度でも受精します。
![]() ●上:顕微授精(ICSI)ガラス棒で穿刺する、 卵子が圧迫されている |
射出精子ICSI法で受精しなかった場合はMESA(精巣上体精子回収採取法)、TESE(精巣内精子回収法)によって回収した精子、ないし精子細胞(精子に変型する前の円形細胞)でICSIに進みます。顕微授精は高度になる程、妊娠率が低くなり子供へのリスクが高くなります。この原因は卵子に物理的な力が加わる問題にとどまらず、本来は競争に勝った最優良精子が受精するところを、人間が卵子に注入する精子を形態だけで判断して選択することが問題になるのでしょう。いかに人類が進化して技術が向上したとしても自然を征服することなどできません。驕ってはいけません。生物である以上、人間は自然の摂理に従わなければならないのです。ちなみにARTの反対の英語はnatureです。
次の点を肝に銘じてください。
- 不妊の原因は毎月異なる
- 基礎体温は信用できない
- クロミフェンを優先使用してはならない
- 不妊症治療に王道はなくART(生殖補助技術)を過信してはならない
- AIH(優良精子選別法)
- AID(ドナーは医学部学生)
- 体外受精(マイクロドリップ法、ICSI,MESA,TESE,胚凍結保存)
- 随証漢方療法:
八綱・気・血・水弁証法(クロミッド等は頸管粘液減少作用、子宮内膜菲薄化作用があるため妊娠率が悪い) - AIH:
卵管灌流法(体外受精と同じ方法で処理した精子をET-チューブで卵管に環流するAIH、男性不妊症で体外受精の前の段階で行います) - 体外受精:
HFF swim up法(妻の卵胞液でswim upした精子によって受精させる方法、ICSIの前の段階で行う体外受精、子供に対するリスクが低くなる)、マイクロドリップ法。








